Contact: Guyuk

とある晴れた日の正午、強い陽射しの照りつける、砂都ウルダハ。

その中でも、盛んである市場や闘技場に負けず劣らず、活気に満ちているのが、ここ、冒険者ギルド『クイックサンド』である。
大門から吹きつけた砂の残り香を纏わせる戸を押し開けると、茶葉や焼き物の匂いと共に、冒険者たちの賑わいが溢れ出てくる。
屋内に足を踏み入れながら、長身のアウラの男は、何かを探すように視線を巡らせた。


その姿に目ざとく気付くのが、よく気のつくララフェル族の女性―――モモディ女史である。
砂都の冒険者ギルドを取り仕切る彼女にとっては、この都では物珍しいアウラ族といえど、馴染みの顔の一人であった。

「あら、エレルヘグじゃないの、珍しいわね」

モモディの方を見た男を、手招こうとした小さな手が、一瞬躊躇うように止まる。僅かに気遣うようなその視線の先、彼女の前に並ぶ椅子にも、アウラ族の男が座っていた。

モモディ女史の行動に気づいたのだろうか、ゆっくりとその顔を自分の背後へと向ける。
エレルヘグの存在を認めると、元々眉間に深く刻まれた皺をさらに深くして、ふい、と視線をモモディ女史の方へと戻した。
どう見ても突然の来訪者を歓迎していないその態度にモモディ女史は苦笑している。

「もう、グユク…」

と何やら一言、二言グユクと呼ばれた男に声を掛けた後、再び視線をエレルヘグの方へと向け、小さく手招いた。


グユク、という名を聞き、彼の態度に不快感を示すわけではないものの、ひっそりと溜息を零した男―――エレルヘグは、それでも迷いのない足取りでモモディ達の傍に歩み寄ってきた。小さく、自分より遥かに小柄なモモディに会釈をして。

「……お久しぶりです、女史。グユク・クルク、というアウラ族を探していたので、丁度よかった」

そう言って、椅子に座る銀髪のアウラを見下ろし、―――声の抑揚が薄く、元よりきつい眦ではどう見えたかわからないが―――本人なりに遠慮がちに、声をかけてみる。

「……貴殿がそうだな?」

声を掛けられたと“分かった”のだろう。
グユクは、スゥ、と目を細めてエレルヘグの方へ視線を向ける。
返事はないが、その視線が『自分に何か用か』と語っていた。そして、エレルヘグのことを歓迎していないということも。

「…………」

内心で微かな頭痛を覚えながらも、エレルヘグは表情を変えることなく、懐を探り、丸めた羊皮紙を一枚取り出す。黄、赤、そして黒――――エオルゼア三大国のグランドカンパニーを示すリボンで綴じられたそれを、開いて彼の前に差し出してみせる。

「各国グランドカンパニーからの指示により、現在所属のない冒険者、特に冒険者となってから日の浅い者たちを主とし、小隊を立ち上げその指導、援護に当たることとなった。エレルヘグ・ノイキンだ。その指示書の通り、貴殿の名もリストに載っている。……協力してはもらえぬだろうか」

見下ろす形のままではあるが、その視線は真摯に、グユクの赤い瞳を見つめている。笑みもなく、歪みもなく、ただ真顔で。


彼の真剣さに比べ、二人のやり取りを見守るモモディ女史といえば明るいもので、新しく茶を淹れる傍ら、“よく知るエレルヘグ”の新たな任務にけらけらと笑いを零していた。

「貴方が?新人の支援!?あははは、ラウバーン局長もまた大きく出たわねぇ」
「………女史、痛いほどわかっているところを突くのは止めてください」
「ふふ、ごめんなさいね。……でも、そうね、冒険者としての腕に関しては、私も保障する。どうかしら、グユク?私は、悪くない話だと思うわ」

二人の一連の会話を“恐らく”聞いていたらしいグユクは、軽く目を伏せて何かを考えるような仕草をする。そしてふと、エレルヘグを見上げる。
自分の隣の、空いた席をチラリ、と見て、再びエレルヘグを見てぽんぽん、と隣の机を叩く。その視線は『まぁ、座れよ』と言っているかのようだ。
そして、固く結ばれた口を開く。

「…ゆっくり」

口から出て来たのは、訛りの酷い言葉。

「…わからない、ことば、…ゆっくり、はなす、して、ほしい」

グユクの言葉を聞いて、モモディ女史は、あら、そうだった、と声を上げる。

「グユクのいた所では独自の言語を話していたみたいで、彼、あまりこちらの言葉がわからないみたいなの。でも、この子が頑張って話を聞こうとするなんて珍しいわ」

とモモディ女史はお茶を出しながらふふ、と笑う。


「……なるほど、……奥地の民だったのかもしれないな」

一拍ほど瞬きに時間を割いて―――表情の変わらなさから、それが呆気に取られた仕草だとは誰もわからない―――、エレルヘグは納得したように一つ頷く。そうして、隣の席に素直に腰を下ろした。
がちゃ、と鳴った腰の刀を見下ろし、帯から取り外して、手の届かない、遠くの席に立てかけ、空になった手のひらを開いて見せる。黒革のグローブは、よく使いこまれ、独特の艶を持っている。

「武器は、持たない。闘争の意志はない。俺と、貴殿は、同士だ。共に馬を駆り、鍋を囲み、同じ天幕で眠る者たちだ。それを望む。……どうか?」

ことさらにゆっくり、はっきりと発音して。指先で机の上に輪を描き、その中をとんとん、と叩きながら、自分と、グユクを指す。

グユクは、刀、グローブ、そして円へ視線を移し、再びエレルヘグの瞳を捉えた。

「…モモディ、さん、がいった、…だから、おまえは、わるいもの、ちがう、おもう。でも…ほかの、ぶぞく、いるか」

グッ、と眉間に皺が寄る。

「…ほかの、しんじる、ない。んん…、…いや、だ?」

自分の言いたい事が上手く伝えられず歯がゆいのか、イライラとした調子でトントンと机を指で叩き出す。
グユクのその動作を見て、モモディ女子はそっと苦笑した。

「この子のお父さんから聞いたのだけれど…昔、助けた人に裏切られたことがあって、それ以来外の人間…他の部族をとても警戒しているようなの」
「………」

エレルヘグは、想像を巡らすように、暫し沈黙し、それから視線を上げると、グユクに渡したままの羊皮紙を指す。

「そうか。……この、セイカ……という名前が、アウラの女だな。将来的には増えるかもしれないが、今のところ、アウラ族ならば俺と、彼女だけだ。……この……プロスペール、という名はエレゼンのシェーダー族だし、こっちの……エ・レミナ、というのはミコッテ族だそうだ」

他にもいくつかある名前に視線を滑らせて、それからエレルヘグは真面目な顔でグユクを見る。彼の前にモモディが差し出したティーカップには、真摯に言葉を紡ごうとするあまり、まだ気づいていないようだった。


「他の人間、というのは、どうしても居る。小さくとも隊だから、他人を排すことはできない。部族とて、二人では成り立たない。組織に所属するというのはそういうことだ。だが………指示を受けた以上、俺は仕事を全うしたいと思っている。…つまり、俺は貴殿たち、所属した者を、全力で支援し、守る。貴殿を脅かすものは、俺がなんとかすると誓う。……それならば、どうだろうか」


「…おまえ、いうこと…わかる…、…」

グユクの瞳は、ジッ、と羊皮紙に書かれた名前を追っていく。ふぅ、とため息をつくと同じようにエレルヘグをジッと見る。

「…じぶんは、じぶんでまもる、できる。おれはゼラ、たたかう、しってる。しかし、…」

羊皮紙に視線を戻すと、再びふぅ、とため息をついて、

「もじ、ことば、ぶんか…むずかしい…たすけ、ほしい」

消え入りそうな位、小さな声で言い、手で額を覆う。そんなグユクの様子を見て、モモディ女史はくすくす笑ってお茶を差し出した。

「どうし、なかま、しんじるもの。おれは、いちおう、おまえ、しんじる。ほかはしんじる、できない、…できない…?…おそい、でも、いいか?」

再びもどかしそうに言うと、机の上に輪を描いて、その中をとんとん、と叩いた。


ほんのかすかに、エレルヘグの目尻と頬が、やわらかく緩んだ。
ほっとしたような、緊張が解けたような声が、ほろりと零れ落ちた。

「……ああ、勿論、それで構わない。信じるに値すると、判断できるまで、無理に馴れ合えなどとは言わん。そして、出来る限り、俺は貴殿を助けよう。同士なのだから。……しかし、よかった。俺はどうにも、口が回らず……貴殿だからこそ、わかってもらえたのかもしれないな。……これからよろしく頼む。グユク・クルク」

ぐっと大きな手を差し出し、握手を待つ。

一瞬、珍しいものを見たかのようにグユクの目が見開かれる。エレルヘグの耳に馴染みのない言語で何事かを呟く、彼の瞳からは労わりの感情が見て取れた。

「おま…エレルヘグ?…、しゃべるの、くろう、してる?…たいへん、だ…わかる…」

そう言うと、差し出された手を握る。

「…よろしくたのむ」

大きなアウラの男の手同士が、固く握られる。ザナラーンの豊かな茶葉の香りを漂わせる湯気の向こう、モモディ女史は微笑ましそうに、自分より遥かに大柄な二人を、少年でも見るかのような慈愛の目で見守っていた。



小隊員、一人目との出会い。まだまだ、リストに並ぶ名前は多い。先は長そうだが、エレルヘグは、一旦は新たな同士と、昼食を始めることにした。彼の任務は、始まったばかりである――――

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  • 最終更新:2018-02-19 03:13:50

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