Genocide Assault

砂の都ウルダハ。
黄金都市とも呼ばれ、屈指の交易都市であるこの街の市場は、本日もエオルゼア一の賑わいを見せている。

しかし、光が強ければ強い程、影もその濃さを増すもの――――
栄えている表通りから外れた裏路地の治安と言えば酷いもので、スリや物乞い、暴行なども日常茶飯事である。

そんな裏路地には似つかわしくない、赤いヒールがカツ、カツと靴音を鳴らす。

「……こちら側を通れば、クイックサンドまでは着くでしょうか……」

既に陽は落ち、薄暗い辺りには人影は見えない。
その中を不安そうに胸に片手を添えながら歩くのは、白い角と鱗―――アウラ・レンの特徴を持つ女性。
蒼銀の髪と白い角は、薄闇の中でもよく目立つ。

彼女がわざわざこの通りを選んだのは、ウルダハでは物珍しいその特徴故だ。
多くの人が集まる市場を通れば、どうしても小さな騒ぎが起きるのは避けられない。
それをきらってこの裏路地を使っているわけだが、人に見つかれば一切の安全が保障されない事を、彼女が理解しているかは定かではない。

「……? ……あれは……」

薄暗い中を足元に気をつけながら歩いていると、隣の通りからか、小さく話し声が聞こえた。
止せば良いのに、彼女は話し声が聞こえる方角に近付いていき、物陰から顔を覗かせ様子を窺う。
遠目に見えたのは、柄の悪いハイランダーやローエンガルデの男達数人が、ミッドランダーの青年一人を囲んでいる光景だった。

『おいおい、ここまで言ってまだわかんねぇのかよ? 身包み全部置いていけば、痛い目には合わせないって言ってるんだからよ』
『しっかし良い服着てるよなァ。俺達難民が汗水垂らして働いた所でとても買えやしないんだろうなァ……』
『だったら、譲ってもらうしかないよな? 頼むよォ、早くしてくれないと手元が狂っちまいそうだ』
『ひっ………… だ、誰か……』

一目でわかる、ウルダハの裏路地にはありふれた恐喝の現場。
銅刃団らの警備も行き届かない無法地帯で、弱者に手を差し伸べるものなどまずいないだろう。女性であれば、尚更。

「……やめてください。そのような事、間違っています……」

が、彼女はそれには当てはまらなかった。
逡巡する事なく、男達の前に姿を現し、控えめながら透き通った声を路地裏に響かせる。

『あァ?なんだァ………… …………って』

一斉に声のした方角に振り向く男達。
すると照らし合わせたかのように、その表情が皆一様に驚愕に染まって間抜けに口を開いた後、やがて下卑た笑みを浮かべる。

『……これはこれは…… 見たこともねェ種族の上に、表でもまずお目にかかれないような上物とはなァ……』
『ヒヒッ、ついてるなんてもんじゃねぇなァ、今日は! お嬢さんよぉ、なんでこんな所にいるんだか知らねぇが、俺らに声をかけてきたって事は、わかってるよな?』
『夜が明けるまでまわしちまった後は、奴隷商人に売り飛ばしちまえば……一体いくらになるんだろうなぁ、ヘヘッ!』
『ひ…………う、ぁぁぁ……っ!』

ミッドランダーの青年は、地べたに這ったまましばらく呆けたように蒼銀の女性を見上げていたが、やがて思い出したかのように逃げ出した。
囲んでいた男達はそれに視線すら向けず、新たに現れた極上の獲物の退路を絶つように近付き、口々に下品な言葉を吐きながらその目を欲望にぎらつかせる。

『おいおい、こんな上玉を一晩で手放すとか冗談だろ? うわ、肌やわらけぇ』
「あッ…… や、やめて……っ!」

男の一人が、女性の白い手首を無遠慮に掴みあげた。
女性の表情が恐怖に歪む。それは男達の予想通り、かつ望み通りの反応だっただろう。


――――そう、その感情は確かに“恐怖”だった。
が、その恐怖が自分たちに向けられたものではない事に、男達は最期まで気付く事はできなかった。


ずるり、と。 女性の手首を掴んだ男の、上半身と下半身が、「ずれた」。

『……………え?』

薄闇に、鮮血の立花が咲く。



――――――――――――――――――――――――――――――――



「…………はぁ、はぁ、はぁ…………っ」

ただ一人、夜闇に包まれた路地裏で、蒼銀のアウラが立っている。
が、その衣服や肌には、花が咲いたようにべったりと鮮血を浴びていた。

そして、その足元に転がる無残な骸――――――
否、それはもはや単なる肉塊だ。原型を留めぬ程に破壊され、刻まれたそれらは、人であったかどうかすら判別できない。
単に命を奪うだけなら、ここまでする必要は全く無いだろう。

「…………あ…………あぁ…………っ」

瞳孔の開いた瞳。片手で口元を覆ったまま、小さく震えている。
もう片手では、月明かりを鈍く反射する―――― この辺りで考えると変わった形状の剣、刀を地面に向けていた。
繊細な武器であり、これだけでたらめな殺戮を行うにはこの上なく不向きだ。

だが、その剣がこの地獄を作り上げた事を証明するように、刃は夥しい程の血で濡れている。

「……ご、ごめんなさい……ごめんなさい…… 私……ッ!」

うわ言のように呟いて、蒼銀のアウラは我を失ったように駆け出す。
その謝罪の言葉も、血に沈んだ骸たちに向けられた言葉では無いのだが…… どちらにせよ、亡骸に言葉が届く事はない。

深まりつつあるウルダハの夜―――― 時が止まったような静けさの中で、一面の紅が月に照らされていた。



  • 最終更新:2018-07-02 23:48:16

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